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連載コラム

福祉車両の新しい在り方。健常者と障がい者の心のバリアフリーを目指す【前編】

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福祉車両の新しい在り方。健常者と障がい者の心のバリアフリーを目指す【前編】ー 株式会社ファブスター代表取締役 上杉隆昭×長谷川晃

「お気に入りの車に乗りドライブをするのが好きです」
自身の趣味をこんな風に話してくれる人って珍しくないですよね。でも、どうでしょう?それって健常者だけの話しなんでしょうか?
この日訪れたのは、光岡自動車の正規ディーラー及び認定工場等を手がける他、福祉車両事業に取り組んでいる株式会社ファイブスターの事務所。社長の上杉さんと同社にてミニクロスオーバーを福祉車両にカスタマイズして購入したという長谷川晃さんのもとを訪ね、一見全く違う日常を過ごしている2人が思う、健常者と障がい者の「心のバリアフリー」についてお話を伺ってきました。

上杉 隆昭

山梨県出身。山梨県立日川高校卒業後、Interior Center School、Parsons New Yorkで学んだ後、株式会社キュレイターズに入社し経験を積む。2000年株式会社スペースデザインに転職し、海外事業部でインドや中東ドバイにて勤務。その後ドバイでレストランやカフェを展開するデザイン&コンサルティング会社を起業。2013年、父親が交通事故に遭い緊急帰国。現在は、株式会社ユー・ファイブと株式会社ファイブスターの代表取締役を務める。

長谷川 晃

山梨県出身。2011年2月「バージャー病」の進行により両足大腿を切断する大手術を受ける。2年間のリハビリ期間を経て2013年に山梨県庁、障害福祉課で4年間の事務職を経験。2017年大手民間企業へ転職し現在に至る。。2017年冬、ファイブスターにてミニクロスオーバーを購入をきっかけに、健常者と障がい者の心のバリアフリーを目指し、上杉さんと共にイベントやメディアで活動を開始。趣味は、ドライブとショッピング。好きな言葉は、超ポジティブ。

想いをぶつけ合った出会い
ー長谷川さんの病気について教えていただけますか?

長谷川 私はバージャー病(指定難病)という病気です。簡単に説明すると、四肢や指趾(手や足の指)に血液が十分供給されないために組織が低酸素症状を起こし血管炎症を起因するという病気。患者の9割が男性で、発症年齢も30~40歳が中心と言われている原因不明の病気なんです。治療はしていましたが両足の壊死が進行し、2011年2月に両足を切断する手術をしました。手術を終え、目覚めたときから私の人生は大きく変わりました。それはもう苦しかったですよ。でも、私の入院していた病棟は、ほとんどの人が生死に関わる病気でした。入院している間にも何人かが亡くなってしまったんです。その病棟に入院できたおかげで落ち込んでいてはいけない、と生きることへの強い意思を持つことが出来ましたよ。成人してから発症した病気なので、40年近く健常者として生きてきた私にとって、健常者と同じように暮らすことがやっぱり目標です。全く同じとはいかないけれど、近づきたいとは思っています。

上杉 本当に計り知れない精神力と行動力ですよね。だからいつも彼に言われるんですよ。上杉さんは偽物だって。(笑)確かに私には分からないことだらけだと思います。でも、健常者と障がい者が寄り添うことならできると思うんですよね。

長谷川 そうですよね。一人ひとりがもう少しだけ知識や意識を高めていくだけでお互いの暮らしが豊かに変わると思うんですよね。


▲両足を切断する手術をし、現在は片足に義足を付けて車椅子で生活をする長谷川さん

ーお二人の出会いを教えていただけますか?

長谷川 入院中もずっと退院してからの暮らしについて考えていました。普通に暮らすって?どんな風に?なんてこと考える毎日でしたね。そんな中で、やっぱり仕事と車は
必要かな?と思ったんですよ。でも知識がないからどうしたら良いかも分からず。行政に聞いたり、知人に尋ねたりしながら、何もかもが手探りでしたね。そして、車のことで悩んでいた私に、知人が上杉さんを紹介してくれたんです。自分の好きな車に手動装置を取り付けることの出来る福祉車両事業をやっている方がいると紹介してくれました。

上杉 知人から電話をもらってすぐに訪ねてきてくれたんです。初対面なのにいきなり6時間も話したんですよね。その中で長谷川さんからお説教いただいた部分もあります。「福祉車両事業やってますとか言って、このお店に車椅子がないのはなぜですか?」なんて突っ込まれたりして。でも彼との出会いで思い知らされたことって本当にたくさんあって、あの日の6時間が私の気持ちを変えてくれました。

長谷川 本当ですよね(笑)。かなり私も力が入ってしまって、思いをぶつけてしまいましたよね。でも、上杉さんは素直に聞いてくれましたんですよ。だからこうやって仲良くなれたんだと思います。


▲今でも会うと話し止まらないと笑う2人。この日ももちろん止まりませんでした

福祉車両だって選択肢があって良いと思う
上杉 私が福祉車両事業に取り組み始めたのは、父親が交通事故に遭ったことがきっかけです。福祉車両の選択肢の少なさに正直驚きましたね。それで色々と調べて、自分の好きな車を福祉車両にカスタマイズ出来るスウェーデンの福祉車両メーカー「オートアダプト」とイタリアの「KIVI」に出会ったのです。障がいのある人だって、介護される人またはする人だって好きな車に乗りたいと思いますよね。自由に選んだっていいでしょうって思うんですよ。


▲手動装置を取り付けた長谷川さんのミニクロスオーバー。この愛車で片道約1時間かけて毎日会社に通勤しているそうです。

長谷川 上杉さんからこの情報を聞いた時は嬉しかったです。かっこいい車に乗れるんだって希望が持てました。実は私、手術してから2台車を買い換えていたんですが、2ヶ月程前にファイブスターでミニクロスオーバーを購入したばかりなんですよ。自分が好きなように、使用しやすいようにカスタマイズして。星のモチーフが好きなので愛車にも星を所々に入れてもらいました。障がいを持つとついつい家の中にこもってしまいがちになるけれど、何処かへ出かけることが楽しくなったし、その為に仕事も頑張ろう!と思えるようにもなりましたね。全てが、良い方向にしか進んでいないような気がしています。

上杉 乗り出して2ヶ月くらい経つけど、乗り心地はどうですか?

長谷川 すごく良いですよ。昨日も御殿場プレミアムアウトレットまでドライブがてら買い物に行ってきました。

上杉 すごい行動力だな~

長谷川 山梨は障がい者が安心して行ける施設が少ないんですよ。だからどうしても休日は県外に行ってしまうことが多いですね。

上杉 そうか~。そういう部分でもやっぱり意識していかないとですよね。

長谷川 そうそう。そしてやっぱり障がい者って横の繋がりが少ないから。情報が入ってこないんですよね、なかなか。

上杉 そうですよね


▲長谷川さん自慢の愛車ミニクロスオーバー。形はそのままで手動装置を取り付けてあります。試乗したときの乗り心地の良さで購入を決意したと教えてくれました。所々に長谷川さんのトレードマークでもある、星を散りばめてうっとりするようなデザインです


▲通常はブルーである車椅子マークもカスタムしている長谷川さん


▲10kg前後はあるという車椅子を持ち上げて、乗り降りするのも自身で行います。休日もドライブに出かけることが多く、北杜市清里が最近のお気に入りだと教えてくれました

このまちの「心のバリアフリー」
ーお二人の考える理想の暮らし方ってどんなことでしょうか?

上杉 私は長谷川さんに出会うまで自社で福祉車両事業を行っていることを公にしてきませんでした。偽善者ぶっているなんて言われることを恐れていたのかもしれません。でも、実際当事者と出会い、話をする中で情報があまりにも少ない現実を知りました。
そして、本格的に事業を進めていく覚悟ができたのです。まずは自社の店舗作りから力を入れました。お手洗いがとても重要だというアドバイスをもらったこともあり、そこは慎重に進めましたね。

長谷川 そうなんですよ。私がお店に入ってまずすることはお手洗いの確認ですからね。例えば、飲食店で食べている途中にお手洗いに行きたくなっても入れないお手洗いだったらアウトですから。私たち障がい者にとってお手洗いはかなり重要なポイントなんですよ。

上杉 そうですよね。自社のお手洗いは、長谷川さんだけでなく色々な障がい者の方に実際に利用してもらって試行錯誤を繰り返しました。

長谷川 ここを訪れるのは安心できますよ。(笑)

上杉 ありがとうございます!

今後は、自社の中だけでなく健常者と障がい者がもっと当たり前に同じ場所で暮らせるような提案が出来る活動もしていきたいと思っています。もっと自由に、もっとかっこよく、過ごせるまちづくりはどんな人にとっても憧れですよね。そのためにまずは自分が動かなければならないことも長谷川さんと出会い学べたことの一つだと思っています。


▲熱い想いを語る上杉社長

長谷川 私は健常者から障がい者になったこともあり、みんなと同じように暮らしたい気持ちが強いのかもしれません。このまちは本当に車椅子で行ける場所が限られています。車椅子可能なんて書いてあるお店でも入り口から入れないお店もたくさんあるんです。周りの人に手伝ってくださいと声かけることってとても勇気がいることなんですよ。困っていても言えない人だっていると思います。私だって悔しい思いをする時も少なくありません。それでも、このように当事者の思いを発信していくことで少しでもこれから、このまちの暮らし方に変化が生まれたら嬉しいなと思い、体の許す限りは活動していこうと思っています。


▲上杉社長と共にイベント等にも積極的に足を運び活動していると教えてくれました

ー100人いれば100通りの考え方があるように、同じように見えて皆違う。共に暮らすにはお互いを思いやる気持ちが大切だということを2人のお話を聞いて感じたこの日。目線を少し変えて見るだけで世界は全く違ったものへと変化します。ちょっとしたことの違いで健常者と障がい車のバリアは減るのかもしれない。そんな期待が持てた日となりました。お気に入りの車を自分仕様にカスタム出来る福祉車両という一つの選択肢が、誰かの人生を変え、強いてはこのまちのスタイルを変えるきっかけになる日もそう遠い未来ではないのかもしれません。

次回の【後編】では、長谷川さんのよく知る作業療法士・杉田遼さんを交えて、リハビリの現場の現状や3人が目指すところについて詳しくお話しを伺います。

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